30/5/2021

初めてのライブハウス

(この話の続きです)

青春の光と声

スポットライトが眩しい、そして凄く暑い。
高一の秋、初めてのライブハウスのステージにぼくたちは立っていた。

緊張で口の中がカラカラに乾く。
中学では始業式と終業式の度に全校生徒の前で演奏してたから人前で音楽をやるのは初めてじゃないのに。

いちばん緊張したのはいつだったっけ?
クラス対抗でリコーダー演奏の指揮をしたとき?
でもあのときは客席に背を向けていたし、緊張で真っ赤になっているクラスメートたちの顔を見てたらなんだか可笑しくなってしまった。
目の前に居たK沢さんから後で「笑ってくれたおかげでちょっと緊張が和らいだ」って言われたっけ。

それとも文化祭でクラシックをアレンジしてドラムを叩いたとき?
あのときも緊張したけど最初のフィルインでスティック同士がぶつかってしまってハッと我に返り、その後は楽しめたんだった。

でももう中学時代のそれらとは全然勝手が違う。
今はモニターやPAスピーカーから出る轟音が回ってしまってみんなの演奏がよく聴き取れない。

でも緊張していたのはぼくだけだったのかも。
ギターのアンガスこと遠山は、派手派手なアクションでAC/DCを2曲弾いて一気に自分の世界に持っていった。
遠山はちゃんと弾くということよりも、常にパフォーマンス重視だ。
そういう目立つフロントマンの存在は有り難い。棒立ちで演奏されても観ている人には面白くないだろうし。
ぼくも2曲目の途中からだんだん耳が慣れてきて、爆音が聴き取れるようになってきた。
最初が難しい曲じゃなくて良かった…。

続くセットリストはRush、TOTO、渡辺香津美、矢野顕子……はっきり言ってめちゃくちゃだ。選曲が。
みんなの好きな曲を寄せ集めたら謎のごった煮になったという、高校生あるあるだ。

Rushの『YYZ』なんて明らかに背伸びだった。
「こんなの出来るわけないけど」と言いながら遠山が聴かせてくれた曲に、
「面白い曲だね!演ろうよ!」と飛びついたのは、最難関のドラムをコピーしなきゃならないぼくだった。
身の程知らずとしか言い様がないんだけど、それが高校生っていう生き物なんだろう。
Rushはドラムとベースが極端に難しく、ギターは簡単だ。
ニール・パートのフィルインは難しすぎて全然うまく真似できなかったけど、それまでシングルストロークしかしていなかったぼくにとって新しい世界への扉だった。

そしてハプニングは最後に起きた。
残り持ち時間がもう無いと言われたベースのふれでぃが、突然最後の曲を変えてYMOのライディーンをキーボードで弾き出したのだ。
たぶん予定していた曲より短いから、なんだろう。
マルチプレイヤーのふれでぃはベースはもちろん、ピアノ、キーボード、トロンボーン、ドラムなど一通り演奏できる。
ライディーンのキーボードはそんなふれでぃの十八番だし始まったからには演るしかないけど、よく考えたらギターの出番がない!
遠山は手持ち無沙汰のままステージを終えることになってしまい、観に来てくれた彼の高校の同級生たちから
「遠山聴かせろ〜!」と野次を飛ばされたのは無理もなかった。

ステージから降りるやいなや、こんどは見知らぬお姐さんに
「リーダーの子、来て!」
と何故かぼくが呼ばれ、
「演奏は良かったけど、次のバンドも聽いていってくださいってMC言わなきゃダメでしょ!君たちが終わったらお客さん減っちゃったでしょう」
と叱られた。
すみません…。

そうかライブハウスではそういうマナーが必要なのか。
全てが初めてのことだらけで、対バンへの配慮とかまったく思い付きもしなかった。
もっとも、MCをしていたのは遠山とキーボードのイワシなんだけど、それはさておき勉強になった。


かくして、初めてのライブは混沌のうちに幕を閉じた。
帰りの夜の新宿駅も酔っ払いだらけでカオスだったっけ。

それにしてもあのお姐さんは対バンのマネージャーさんだったのか、それともライブハウスの人だったのか、今でもわからない。
これからはこうして学校の外でいろんなことを学んでいくんだな、きっと。


Comments (0) ロック,エッセイ Tags: 友人, ライブ, バンド, ドラム, 遠山勝省 — Kyo ICHIDA @ 2021/05/30 02:00

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