25/9/2016

熊本から届いた写真集

今年の4月、熊本地震の発生直後に熊本県人吉市から小包が届きました。
いや正確に言うとフランスの郵便事情のため届かなかったのですが、「手違いで遠くの郵便局にある」と電話があり、取りに行くと中身は丁寧に梱包された十文字美信先生撮影の非売品写真集『TORIKAI』でした。
地震発生の数日前に鳥飼酒造の方が送ってくださったものが遥々海を越え無事に来てくれたことが嬉しかったです。

torikai_2358

ページをめくると2年前に訪れた美しい場所がそこに在りました。


地震発生の直後、ご迷惑とは知りながらも矢も盾もたまらず鳥飼社長にお見舞いのメールをしたところ、恐縮なことにすぐにお返事くださり、
「有難うございます。
どんな事が起きていようが
私は全て受け止めていく事とします。」
とありました。ご無事に安堵するとともに、鳥飼社長の覚悟を感じたのでした。


鳥飼酒造の公式サイト制作のお話を十文字先生からいただいたのは2014年に遡ります。
広告代理店と話をしても相互理解に至らず、それまで広告を一切していなかった鳥飼酒造の鳥飼和信社長が jumonjibishin.com をご覧になり十文字先生に直接会いに来られ、おふたりが意気投合して映像作品とホームページ、そして写真集を作ることになったのでした。
それで十文字先生のサイトを制作させていただいているご縁で僕に声をかけてくださったのです。

元々蒸留酒好きでもありさっそく『吟香 鳥飼』を取り寄せてみたところ、その香りと味わいにすっかり魅了されてしまいました。
しかもたいへんな年月とエネルギーを費やして、焼酎造りの酵母の研究のみならず環境保護にも取り組んでおられるとのこと。
サイトを制作させていただくにあたり、是非この焼酎が生まれる環境を見ておかなくてはとお願いすると、映像撮影を見学させていただけることになりました。


2014年7月、初めて訪れた九州・熊本は夏でしたが山の空気は清涼で過ごしやすいものでした。
極力迷惑にならないよう撮影の最終日にお邪魔したのですが、草津川のほとりの鳥飼酒造蒸留所周辺は車イスでも全く困らなようになっていたのは嬉しい驚きでした。
15年の歳月をかけて整えた素晴らしい環境を鳥飼さん自ら案内してくださり、緑と透明な水の美しさに文字通り心奪われました。言葉で表現する術を知りませんが、とても優しい、見守るような包容力を感じる場所なのです。この山に入るのを許されたことに感謝せずにいられませんでした。
荒れ果てて危機的状況だったという山の自然をこんなにも美しく蘇らせ護っていくことは、想像を絶する困難や苦労があったことでしょう。
更に鳥飼さんの美意識は蒸留所や斧研麹蔵にも貫かれており、一滴の排水も川に流すことなく配慮された、もの凄く清潔な環境で吟香鳥飼は丁寧に造られていたのでした。
あらゆるもの作りにも通じる鳥飼酒造の焼酎造りの姿勢にカルチャーショックと言っても過言ではない感銘を受けました。

そして十文字先生が信頼するチームが一丸となった撮影は想像していたよりも遥かに大規模で、一切の妥協のないものでした。
ムービーの撮影現場は昔CMの仕事をしていた頃以来で懐かしい緊張感です。
仮編、修正を経て最終的な映像を受け取ったのは2014年のクリスマスでした。
完成した動画を観ていると撮影現場を見学させていただいた記憶が鮮やかに蘇るとともに、まるで川面の上に自分自身が浮遊し辺りを眺めているような気分に。
しかも音楽は十文字先生と親しい三宅純さんという豪華さです!


こうなるとサイト制作にも良い意味でプレッシャーがかかるというものです。
始めはトップページの背景を動画にしようと準備していたのですが、動画背景はもうあまり珍しくはないですし、せっかくの映像をトリミングしたくないので、もう少し違ったものにするべく全てをやり直すことに。
今回は十文字先生の写真を贅沢に使用できるので、デザインし過ぎないことを意識しました。
極力デザイナーの存在を透明化し、PC版は矢印キーで操作できるので本当はボタンも無くしたかったくらいですが、あまり難解になってもそれはそれでエゴなんですよね。
唯一の正解というものは存在しませんが、時間が許す限り考え続けます。

20種類以上のモックアップを作っては壊しの試行錯誤を経て、サイトは翌年の2月7日に公開となりました。
映像を是非HD高画質設定でご覧いただきたいです。
この仕事はあたかも十文字組の末席に加えていただいたかのようで、特別思い出深いものになりました。

TORIKAI
http://torikais.com

透明な水の流れにはずっと眺めていたくなる不思議な魅力があるんですよね。
その後も十文字先生は草津川で撮影を続けられ、さまざまな水の様態をテーマにした展覧会がBISHIN JUMONJI GALLERYで10月31日から始まります。
会期中に間に合うように帰国しようと、今から楽しみです。

実はこのエントリーに自分が撮った現地のスナップを載せようかとも思ったのですが、やはり十文字先生が撮られた写真や映像でご覧いただきたいのです。言うまでもなく比べものになりません!
写真集『TORIKAI』は非売品のため一部の幸運な方しかご覧になれませんが、是非『十文字美信写真展 刻々』にお運びいただきたいです。


今まで仕事に関することはあまり書かないようにしていましたが、守秘義務に抵触しないものについては少し書いていこうかと思います。
ウェブデザインは基本的に儚いものですし、記憶もやがていつかは消え去ってしまうので。

  

One Response to “熊本から届いた写真集”

  1. cheapest madden coins mobile store 8/2/2017 at 2:12 AM

    Not that I know of.