着地点

何にでも終わりがあるもので楽しかった旅も9日目、ついに帰る日がやってきた。1時間半くらい仮眠をとって起きシャワーを浴びる。この車椅子で入り込めるシャワールームは使い勝手が良いので将来バリアフリーでなければ暮らせないほど老いぼれたら自宅につけたいと思う。今のところはバリアだらけ住宅でいいんだけど。
それにしても今回の旅ではバリアフリーについていろいろと考えさせられた。当たり前のことだけどやはり話に聞くのと実際に体験するのとではずいぶん違う。やはりこちらと比べて自分が普段生活している日本の状況はとても遅れている。福祉社会として知られる北欧には行ったことがないのでヨーロッパと比べて一概にどうとは言えないけど、例えばフランスは意識の面では日本とかより格段に進んでいるもののバリアフリーに関してはまだまだアメリカに及ばない。アメリカは守るべき歴史や伝統がない分、そういったしがらみに縛られずにものやしくみを合理的に作りやすい国なのかもしれない、というのがわびすけと僕で一致したこの国から受けた印象だ。地方によって状況は違うだろうけど。
その地域が障害者にとって暮らしやすいかどうかは街中で例えば車椅子の人をどのくらい見かけるかで判る。今でこそ障害を持っていても健常者と同様に人生を楽しむ権利が謳われてきているけど、昔は普通の生活なんて望むべくもなかっただろうし今だにそういう地域も多いことだろう。
変な話だけど僕はこれまで自分が障害者だと特に意識して生きてきたことはほとんどなかった。それどころか「障害者」という言葉さえ僕のボキャブラリーにはなかったくらいだ。それは自分自身の状況に慣れきっていて別段不満がなかったためだと思う。なのでこんなに障害者の目線でものごとを考えたのは初めての経験。うまく言えないけど今まで何かを置き忘れてきていたような、もっと何とかなることがまだまだいっぱいある気がしてきた。などとつらつら考えながら身支度。


Samさんの幸運電磁波の強さを物語る2枚で980ドル分の納税証明書.
朝9時過ぎ、ホテルをチェックアウト。4晩過ごし楽しませてもらったシーザーズ・パレスに別れを告げる。
ゆうべはSamさんも朝方4時頃までカジノにいらしたそうだ。そしてこの旅2度目の1600ドルをゲット! 再びネバダ州に490ドルの税金を支払ったそうで、2枚の納税証明書は勝利の証! それにしても、外国人に対してはカジノの賞金から税を取るなんてシビアな州法。
ほどなくマッカラン空港到着。まだ搭乗まで時間があるのでトイレへ。そういえばこちらでは空港等の公共の場所以外では車椅子マークのトイレを見かけない。普通のトイレでも車椅子が入れる大きさがあるのでわざわざ必要ないのかも。どこへ行くにもトイレに関して心配しなくていいというのは実は凄いことなのだ。
国土の圧倒的な広さも関係が深いと思う。例えば車椅子でも生活しやすくするためにこれだけたっぷりとスペースを割くアプローチは狭い日本では難しそう。
とはいえ、じゃあしょうがないねと諦めるわけにもいかない。ここ数年日本でもバリアフリーやユニバーサルデザインについて語られるようになってはきたものの、ここまで遅れてしまっているのは主に目先のことだけを見て将来のことを考えずに来た社会の体質や、日本の建築家達の責任が大だ。 誰でもいずれ年老いて、身体が効かなくなる。そうなったとき初めて、自分達の作ってきた建物や道具がいかに柔軟性がなく使いにくいものだったか気づく・・・。それは情けない話だし、そんなことをいつまでも繰り返していては人生なんて何回あっても足りない。
これは多かれ少なかれあらゆるジャンルに当てはめて考えることができると思う。長く通用しないものを適当に作っては後でまた一からやり直す無駄を繰り返すよりも、将来を見据え一本筋の通った基本計画に沿って改良を重ねていけるような先見性を持ちたい。後から道幅を広げるのは大変だし。
話がだいぶ大袈裟な方向にそれたけど、ものを創る人間のはしくれである僕にとっても今後の重要な課題がひとつ見えた気がした。

ノースウェスト77便12:45発成田行き。非日常から日常へと戻る飛行機に乗り込む。さようならアメリカ。
離陸を待っているうちにいつの間にか眠ってしまい、気がついたら既に雲の上だった。機内食のかたずけが終わって落ち着くのを待ってから、わびすけにお土産CDを配りに行ってもらう。全くもってとてもお礼にはならないが、皆さん音楽好きなのでお好みに合いそうな曲を探しておいたもの。SamさんにはPat Metheny Groupの"Travels"。このアルバムは僕にとって漠然とアメリカのイメージなので、今回の旅にふさわしいような気がした。(この日記のメニューページは"Travels"のアルバムジャケットのパロディ) 舟橋さんはユーミンのサイトやライブ中継のお仕事もされているので、ユーミンが敬愛するメセニーの"First Circle"に。ロドさんはTOTO等のウェストコースト系がお好きのようなのでSteely Danの"Aja"を。3枚ともベストセラーなので「もう持ってるよ」となるかもと心配だったけど、幸いセーフだった。この後、旅の思い出に浸っているうちに再び爆睡。

予定より1時間近く早く夕方4時前に成田に到着。ああ、そうだったという感じの曇り空。ずいぶん久しぶりに帰ってきた感じがするのは気のせいなんだけど。
車ももちろん自動車窃盗団に連れ去られたりせずちゃんと待っていた。Samさんを光栄にも僕の車でお送りすることに。やっぱり車で来てよかった。
Samさんが左側に座られているので旅の延長のようで違和感を感じない。ただ、僕の車ではちょっと窮屈だったかも。
帰る道すがらいろいろなお話を聞かせていただいたことは旅の最後の忘れられない思い出になった。Samさんは今後も強い正義感と抜群の行動力で益々ご活躍されることだろう。影ながら応援!

まるであしながおじさんのようなSamさんからプレゼントされたこの旅で、いろいろなヒントをいただいた。自分自身の駄目なところもたくさん見えた。
初め、そのプレゼントを受け取る資格が自分にあるのだろうか?と戸惑ったのは突然のお伽噺のような展開に、どう恩返ししていいかも判らなかったからだ。Samさんにとって毎回のこの旅は仲間からパワーをもらったり、発想をリフレッシュするためのものなのだそうだ。きっとそのパワーやヒントを分けてくださりたかったのだと思う。そして生き方についての贈物は空気中を漂うようにこの旅の至る所に充満していた。今後生きて仕事をしていく上でいつの日かSamさんが「おお!」と喜んでくださるようなものを創る糧にできればいいなと思う。一生無理かも知れないけど・・・せめて呆れられないように気合いを入れねば。
Samさんにまた行きましょう!と言っていただいたことが何よりも嬉しかった。
素晴らしい機会をくださったSamさんはじめ、何かとサポートしてくださったロドさんと舟橋さん、非常に混み合うシーズンに飛行機とホテルをおさえてくださったT嬢、また、Samさんとの出会いの橋渡しをしてくださった糸井重里さんぱとら、そしてもちろんわびすけにも改めて感謝したい。いろいろな人に支えられ励まされて生きていることを実感せずにはいられない。
そしてこの長くて不器用な日記を我慢して最後まで読んでくださったあなたにも、特別な感謝を!

© Copyright 2000 Kyo ICHIDA All rihgts reserved.
Return

SPRING SAM'S TOUR 2000DIARY